カテゴリーエントリーポイント(CEP)とは?
カテゴリーエントリーポイント(Category Entry Point、CEP)とは、消費者があるカテゴリーの商品やサービスを必要として検討し始める際に、まず最初に思い浮かべる「状況」や「きっかけ」、「消費者の頭の中で引き金となる要素」を指すマーケティング上の概念です。
たとえば「今日はリラックスしたい」「来客用のお菓子を買わなくちゃ」「運動したあとの飲み物が欲しい」というような、ある商品カテゴリーを購入する際の最初の意識や行動契機を指します。CEPを把握することで、企業・ブランド側は「どんなシーン・動機・タイミングで自社商品が想起されるのか」「なぜ他社ではなく自社が選ばれるのか」をより具体的に理解し、効果的なマーケティング施策を打ち出すことが可能になります。
- 「喉が渇いたとき」に思い浮かぶ飲料ブランド
- 「疲れたとき」に選ばれるエナジードリンク
- 「リラックスしたいとき」に求められるハーブティー
CEPをマーケティング戦略に活用するメリット
消費者の想起タイミングを増やす
CEPを理解し、それに合わせたコミュニケーションを行うことで、消費者が商品カテゴリーを必要とするあらゆる「きっかけ」や「状況」でブランドを思い出してもらいやすくなります。結果として、購買行動につながる接点を効果的に増やすことが可能です。
ブランドの関連性を強化する
「どんなタイミングで、なぜ使われるか」という具体的な使用シーンに沿った情報発信を行うことで、ブランドと特定のシーンや目的との関連付けが強化されます。消費者がその状況に直面したとき、自然にそのブランドを連想するようになり、カテゴリの中での優位性が高まります。
差別化と競争優位の獲得
同一カテゴリー内で商品自体の特徴だけに頼るのではなく、「どんなシーン・どんなきっかけで選ばれるか」という視点で差別化を図ることができます。競合他社がまだ押さえていないシーンや動機を取り込むことで、ブランド独自のポジションを築きやすくなります。
マーケティング施策の焦点が明確になる
どのCEPを狙うのかが明確であれば、施策として打ち出す広告の内容やタイミング、販促の場所、SNSキャンペーンの切り口などをより的確に設定できます。限られたリソースを有効活用し、投資対効果(ROI)を高めることが期待できます。
製品・サービス開発に役立つ
どのような場面・タイミングで必要とされるのかを把握することで、商品自体をそのシーンに最適化したり、新たな消費シーンを創出するような製品・サービスの開発に反映させたりできます。また、季節やトレンドに左右されるニーズを取り込みやすくなり、市場拡大や新規顧客開拓にもつながります。
カテゴリーエントリーポイント(CEP)の効果的なリサーチ方法とは?
定性調査(Qualitative Research)
(1) インタビュー・グループインタビュー
- 狙い : 消費者が特定のカテゴリーを検討・購買する際の心理や背景、生活シーンを深く知る。
- 方法 : 個別インタビューや少人数のフォーカスグループを通じて、購買動機・検討プロセス、使用シーンなどを細かくヒアリングする。
- ポイント : 購買行動を遡って、「どんなきっかけでそのカテゴリーを思い立ったか」「競合との比較でなぜそのブランドを選んだか」を深掘りする。
(2) 行動観察・エスノグラフィー
- 狙い : 消費者本人も気づいていない「無意識の行動パターン」や「習慣」を発見する。
- 方法 : 実際の生活環境や店舗、オンラインでの行動をリアルタイムに観察し、いつどのようにそのカテゴリーの商品を検討し始めるのかを調べる。
- ポイント : 言葉だけでは捉えられない潜在的なニーズや行動が掴めるため、CEPをリアルな消費行動の流れで見つけやすくなる。
(3) カスタマージャーニーマップ作成
- 狙い : 購買プロセス全体を可視化し、どの段階・場面でCEPが発動するかを確認する。
- 方法 : 消費者が「ある商品カテゴリーを知る」「興味を持つ」「比較・検討する」「購入する」「使用・リピートする」までの一連の流れを整理し、どのタイミングでスイッチ(きっかけ)が入ったかをマッピングする。
- ポイント : 購買行動全体の中で、“最初に頭に浮かぶ状況”がどこに挟まっているかを明確にすると、具体的なCEPを導き出しやすい。
定量調査(Quantitative Research)
(1) アンケート・オンライン調査
- 狙い : 定性調査で導き出した仮説(どんなシーンや動機があるのか)を広範囲の消費者に対して検証・数値化する。
- 方法 : オンラインアンケートで「いつ・どんな状況でカテゴリーを想起するか」「想起した際に選ぶブランドは何か」などを尋ね、回答をデータ化・分析する。
- ポイント : 大きなサンプル数から、重要なCEPの優先順位や頻度の高いシーンを客観的に把握できる。
(2) 購買データ・POSデータ分析
- 狙い : 消費者が実際に購買したタイミングや組み合わせ、季節性、購入チャネルを把握する。
- 方法 : スーパーマーケットやコンビニのPOSデータ、ECサイトの購買履歴などを活用し、商品購入の時期、併買商品、頻度などを分析する。
- ポイント : 「特定の曜日やイベント時に購入が急増する」「特定の商品と併買されるケースが多い」というように、実際の行動に基づくCEPを推察できる。
(3) ソーシャルリスニング
- 狙い : SNSやコミュニティサイトの投稿内容から、消費者がどんな状況・文脈で製品カテゴリーについて言及しているかを把握する。
- 方法 : TwitterやInstagramなどでカテゴリー名や関連キーワードをモニタリングし、発言時のシチュエーションや感情を分析する。
- ポイント : リアルタイムで消費者の生の声が拾えるため、新たなCEPやトレンドを早期にキャッチできる。
組み合わせ・検証と最適化
(1) 三角測量(Triangulation)
- 狙い : 定性と定量、それぞれで得られた知見を突き合わせ、矛盾や誤差を修正する。
- 方法 : インタビューで聴取した仮説をアンケートで検証し、結果の妥当性をPOSデータやSNS分析で裏づけるなど、多角的なアプローチで最終的なCEP像を明確化する。
- ポイント : 一つのデータソースだけだと偏りが生じる可能性があるため、複数のアプローチから総合的に判断して精度を高める。
(2) 定期的なアップデート
- 狙い : ライフスタイルやトレンドの変化、季節要因・経済情勢等にあわせてCEPも変わる場合があるため、継続的に監視・評価を行う。
- 方法 : 定期的なアンケート調査やデータ分析に加え、SNSのトレンドや消費者の声をモニタリングして、変化の兆しを捉える。
- ポイント : CEPは一度特定して終わりではなく、市場環境や消費者心理の変化に応じて常に検証とアップデートが必要。
企業の成功事例
アサヒビール「アサヒスーパードライ」
CEP: 「仕事終わりにスカッとしたい」「仲間と乾杯したい」シーン
概要
1987年の発売当初から「洗練されたクリアな味」を前面に出し、仕事後のリフレッシュや友人同士の乾杯のシーンでスーパードライを飲む姿をテレビCMや広告で大々的に訴求。
ポイント
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「仕事終わりの一杯」「週末の楽しみ」といったタイミングを意識して、ビールそのものの味わい(“辛口”・“キレ”)をUSP(Unique Selling Proposition)としながらも、“人と飲む歓び”に焦点をあててきた。
- 消費者の「一日頑張ったご褒美としてビールを飲む」という動機にピンポイントで入り込むCEP戦略が奏功し、一時期はシェア首位を獲得するなど大ヒット。
日清食品「カップヌードル」
CEP: 「時間がない中で手軽に食事を済ませたい」「小腹が空いた深夜に何か食べたい」シーン
概要
カップヌードルは発売当初から「お湯さえあればどこでも手軽に食べられる」というメリットを前面に打ち出し、“忙しい時の強い味方”として消費者の潜在ニーズを開拓。
ポイント
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大学受験生や夜勤ワーカー、忙しいビジネスパーソンなど、「すぐ食べたいけど時間がない」「夜食が欲しい」といったニーズを継続的に捉え、CMやキャンペーンで“手軽さ・スピード”を訴求。
- 「15秒、3分」など、具体的な時間を示すことで“時短”への意識を高め、いつでも手軽に食べられる=カップヌードルという想起を強化。
ロッテ「ガーナチョコレート」
CEP: 「ほっと一息つきたい」「自分へのちょっとしたご褒美」シーン
概要
ガーナチョコレートは、比較的リーズナブルでありながら高品質を強調し、気軽な“ご褒美チョコ”としてのシーン提案をTVやSNSで積極的に展開。
ポイント
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広告キャンペーンにおいて、タレントや人気俳優を起用し「頑張った自分へのひとくちチョコ」「やさしい甘さで休憩時間が癒やしの瞬間に」というメッセージを発信。
- 「仕事や勉強の合間にちょっと口にするチョコレート」という具体的な使用シーンをイメージ付けし、手軽に気分転換ができる製品として消費者の頭に刷り込んだ。
サントリー「BOSS(缶コーヒー)」
CEP: 「眠気を覚ましたい」「仕事中の気分転換」「移動中に手軽にコーヒーを飲みたい」シーン
概要
サントリーのBOSSは、発売当初から「働く人の相棒」をコンセプトに掲げ、CMで“サラリーマン”をフィーチャーし続けることで、仕事の合間や移動中のコーヒーとしての地位を確立。
ポイント
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社会人が日常的に経験する「ちょっと一服したい」「もうひと頑張りしたい」というタイミングに合わせ、「BOSSでホッと一息」を印象づける。
- 働く人を応援するキャッチコピーやCMストーリー(「宇宙人ジョーンズ」シリーズなど)を通じて、BOSS=仕事のパートナーというブランディングを定着させた。
スターバックス(海外事例+日本ローカライズ)
CEP: 「休憩や気分転換のための落ち着く場所が欲しい」「友人とちょっとお茶をしたい」シーン
概要
スターバックスはコーヒーの味とともに「サードプレイス(家でも職場でもない第三の居場所)」というコンセプトを打ち出し、店舗体験全体をブランド価値として訴求。
ポイント
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「ちょっと一息つくため」「友人と気軽に会話するため」といったシーンにフォーカスし、居心地の良い空間と多彩なドリンクメニューを提案。
- その結果、「コーヒーを飲もう」と思ったときにスタバを自然に思い起こすCEPを構築し、プレミアムコーヒーチェーンの地位を確立。
成功事例に共通するポイント
利用シーンの明確化
「どんなタイミング・状況で商品を使うのか」「どんな心理でその商品を欲するときがくるのか」を具体的に定義し、消費者に強く訴求している。
ブランディングとCEPの連動
プロダクトの特徴(味・機能など)だけでなく、「それが活かされるシーン」を継続的に訴求し、ブランド全体の世界観づくりやコンセプトと結びつけている。
広告・キャンペーンでの一貫したメッセージ
TVCM、店頭POP、SNSなどあらゆる接点で一貫して「〇〇のときはこの商品」というイメージを刷り込み、CEPが自然に結びつくように誘導している。
多様なチャネル・タッチポイント活用
消費者が実際に“そのシーン”で目にしやすい場所やタイミング(コンビニ・自動販売機・夜間のCMなど)を重点的に活かすことで、想起機会を最大化している。
まとめ
これらの事例では、商品・サービス自体の利点や機能を訴求するだけでなく、「日常のどんなシーンで必要とされるのか」「そのシーンでどのような価値を提供できるのか」を徹底的に考え抜き、広告や販促に落とし込んだことが成功要因となっています。カテゴリーエントリーポイント(CEP)を明確に定義し、そのCEPで“最初に想起されるブランド”を目指すことが競合との差別化やロイヤルユーザーの獲得につながります。