新市場進出が難しいとされる大きな理由の1つが、進出を予定しているエリアの文化的背景や消費者ニーズを正確につかむことが難しい、という点にあります。必ずしも既存市場での成功体験やアプローチが通用するわけではないため、多くの場合、新市場進出に際して新たな学び直しに迫られることでしょう。
また、当該市場における経済状況や購買力、価格に対する感覚が不明な点も、新市場進出を難しくする大きな要因です。競合企業の存在や各企業のシェア状況、異なる法規制なども踏まえながら、慎重に新市場進出を検討しなければなりません。
新市場への進出は非常に難しい取り組みであり、主観的な思い込みや過去の成功体験などに依存して事を進めることは、極めてハイリスクです。文化的背景が根本的に異なるという前提に立ち、ゼロから客観的データを収集するとともに、新しい視点からのデータ分析が必須となります。
数値上のデータ収集だけではなく、ローカルの消費者の生の声も市場戦略に織り込む必要があるでしょう。
これらの十分な事前準備をベースに、適切なターゲティングやポジショニングを構築することこそ、新市場進出における投資リスクを抑えるための前提。スタートダッシュの成否や事業の持続可能性は、事前のマーケティングリサーチの精度が大きな鍵を握っていると心得ましょう。
新市場のマーケティングリサーチを行う際に押さえておきたいポイントについて、「市場環境・競合分析」「消費者インサイトの深掘り」「規制・法務の確認」の各視点から確認してみましょう。
GDPや人口動態、購買力などのマクロデータを取得し、市場規模や成長性、安定性などを予測。市場進出の可否、仮に市場進出した場合の想定されるリスク等を概観します。
その市場に進出しているローカル企業やグローバル企業のシェア、戦略、ブランド性などを調査。競合の現状を正しく把握した上で、自社の強みや弱みを客観的な視点から検証します。
進出予定の市場に特有の流通網や商習慣をリサーチし、自社に適切なチャネルを選定。並行し、現地市場で信頼できるパートナー探しを進めることも重要です。
現地消費者との直接的な対話(インタビューやグループディスカッションなど)を通じ、市場の文化的背景やブランドの嗜好、購買動機などの心理を深掘りします。マーケティング施策の基盤を作るためのヒントを得られるでしょう。
オンラインアンケートや街頭調査などから数値定量データを取得し、消費者のニーズや嗜好を分析し、可視化します。マーケティング戦略の精度を高めるために役立つ調査です。
進出予定の市場を年齢や性別、地域、所得などに応じて細分化。ターゲットごとのアプローチ方法を検討し、各ターゲットに向けた戦略をカスタマイズします。
事前に、国や地域ごとに異なる規制(輸出入規制や事業許可など)を確認し、それぞれの規制をクリアするための費用や時間を試算。事業開始前に要するリードタイムやコストを把握します。
現地の投資関連法規(法人設立手続きなど)に関する規制を確認し、当該規制に詳しい法務・税務・コンサルタントとの連携のもとで適切なスキームを構築します。
進出予定エリアの現地調査会社や現地コンサルとの連携は、新市場進出において不可欠となるでしょう。ローカルパートナーによるサポートは、法規制への対応だけではなく、言語や文化、価値観などの障壁を克服するためにも大変重要です。
ローカルパートナーとともに、店舗巡りや消費者観察などの市場視察ツアーを行います。定量データだけでは見えにくい生活実態を知ることで、消費者の購買行動を踏まえた実効性ある市場戦略の策定へとつなげます。
広範囲の消費者の声を迅速に収集するためには、オンラインによる調査が適しています。大規模サンプルに基づいたデータ分析のほか、年齢や性別、所得、地域などに応じたセグメント分析も可能です。
数値データのみでは把握が困難な定性・感覚的な情報収集(雰囲気、購買プロセス、陳列状況など)には、消費者との直接対話や店舗巡りなどのオフライン調査が適しています。
オンライン調査で主要データを大規模に収集した後、顕在化した疑問点や注目点についてピンポイントでオフライン調査を行えば、広さと深さの両視点からマーケットの実態を知ることができます。
いかに綿密な戦略に基づく新市場進出であれ、何ら障壁なく順調に事業が進展し続けることは、ほとんどありません。大きな失敗を避けるためには、テスト販売の売上データや消費者の反応、販売店からのフィードバックを基に、当初打ち立てた戦略の効果を評価することが大切です。
評価に基づいて戦略を修正し、改めて販売活動を行い、結果を評価して修正する、というPDCAサイクルを永続的に実施しなければなりません。
新市場におけるブランド地位の確立を目指し、長期的な視野に立った戦略を継続することが大切です。
主なブランド育成戦略は、市場における認知度や評判の変化の継続的なリサーチ。リサーチ結果を活かし、リピーターやロイヤル顧客を育てる施策を継続することで、徐々に市場へ自社のブランド性を浸透させていきます。ブランド育成戦略にもPDCAサイクルを適用させることが大切です。
自社が考える「良質の商品」が、必ずしも新たな市場で「良質の商品」と受け止められるわけではありません。
市場に新たな価値を投入する姿勢は大切ですが、ローカルの文化や習慣を無視した自社視点の押し付けは失敗につながるケースが多い点に要注意です。
コスト削減を意識するあまり、現地市場の調査を簡略化してしまったことが原因で、市場進出に失敗するケースも見られます。
コスト削減の意識は常に持つべきですが、事前調査段階において極度にコストを削減すると、現地の本質的ニーズを拾えないまま市場進出することにもなりかねません。
石橋を叩いて渡る精神は大切ですが、石橋を叩きすぎて適切な市場進出のタイミングを逃す失敗事例も見られます。
比較的速いペースで変化している市場へ進出する場合、長期的な調査ばかりに時間をかけていると、競合に先を越されて自社の参入価値が低下することもあるので注意しましょう。
新市場へ進出する際には、事前に進出予定の市場の規模や成長予測、流通チャネル、競合の状況などを詳細にリサーチすることが必須です。数値的なデータだけではなく、現地の消費者との対話や店舗巡りなどのアナログなリサーチも含め、市場のリアリティを反映させた進出戦略を練りましょう。
戦略の実行にあたっては、まずテスト販売を通じて市場からの反応を確認。反応に基づいて戦略の有効性を評価し、必要に応じて修正するPDCAサイクルを回すことが大切です。並行し、ブランド価値の向上のため、長期的な視点から顧客ロイヤリティの追跡も行いましょう。
いかなる市場であれ刻一刻と変化していますが、中には著しいスピードで変化する市場もあります。そのような市場への進出を企図する際には、事前調査のスピード感も大事。過度に長期的視野に偏らず、オンライン・オフラインをハイブリッドさせた迅速なリサーチで市場進出を目指しましょう。